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風を継ぐ [日記]


3ヶ月の間、幕末を生きた。
当然のことだけれど、現在、私の生きている時代は、
150年近くも先の時代。
幕末を生きた人たちとは、すれ違うことも出来なかった。
沖田総司や土方歳三、長州の男達とも。
私にとってこの3ヶ月は、
今、共に生きている人たちと、
同じ時代を生きていられることに感謝する毎日だった。

この公演の稽古中に、
私の尊敬する、マイケル・ジャクソンが亡くなった。
世界中で、誰にでも会えるなら誰に会いたい?という質問には、
いつも、マイケル!と叫んでいた。
彼のパフォーマンスがなかったら、
私は、ダンスをやってなかったし、役者にもなっていなかっただろう。
最後のアルバムを買って以来、
彼の新しい作品に触れることも、ライブに行くこともなかったため、
彼が亡くなったニュースは、いまだに遠いどこかの、
おとぎ話のように、現実のこととは思えない。
もういないのか。
でも、私は、確かに、同じ時代を生き、
彼の姿を東京ドームで、何度も見ることができた。
歌声を聴き、パフォーマンスを見て、大興奮できた。
今は、同じ時代に生きられたことを喜ぶ気持ちが、
心の中に溢れている。
私は幸せものだ。
マイケル、ありがとう。


あなたと同じ時代を生きられることは、
それだけで奇跡。
出逢えただけで幸せなのです。

美祢という役を演じた。
夫を殺され、その敵を討ちたいと願っている。
役者としては、すごくやりがいのある、面白い役だろう。
と、私も、演じる前は思っていた。
3ヶ月の間、復讐の蒼い炎を燃やし続けるのは、
想像以上に身体にはよくなかったかな。
ひどい女だ、全く共感できない、なんて言われながらも、
私は美祢を愛して、演じていた。

大切な人を殺されたからって、殺した人を殺しても、
大切な人が返ってくるはずがない。
でも、あの時代は、あの時代の武士達は、
あだ討ちなんて当たり前。
夫をはじめ、たくさんの同士を殺された長州にとっては、
新選組は、殺さなくてはいけない敵なのだから。
そんな長州魂を持ちながら、
日々、沖田総司を殺すために、戦いました。
夫ももういないのだから、自分も死んでいいと思っていたのでしょう。
でも、運命の人と出逢い、
美祢は、生きることを選んだ。
今度は、沖田に助けられた命を持って。
小金井兵庫と出逢い、一緒の時代を生きられたことは、
美祢にとっての奇跡。
奇跡に感謝。

舞台袖で、必ず、ラストシーンを見ることにしていた。
弟と、旦那が、生きていてよかった、というシーンを、
毎ステージ見ることによって、精神を保っていたのかもしれない。
いっつも嬉しくて、涙が出た。

生きててよかった。
死んだら、
あのとき死んでいたら、今、何にも感じられない。

「風を継ぐ者」は再々演。
キャストが一新された。
入団する直前に、客席でこの作品の初演を観ている私にとって、
お客さん以上に、初演が大好きだ。
好きすぎて、劇団に入っちゃったわけで。
でも、今回、このメンバーと共に、幕末を生き、
新しい沖田や新しい迅助や新しい兵庫や新しい剣作・・・みんなみんなが、
風をしっかり受け継ぎ、新しい「風を継ぐ者」を作った瞬間に、
私も一緒に立ち会えたことを、
心から幸せに思っている。

一緒の時代を生き、一緒に舞台に立てることも、奇跡。
きっと、すごい確率の奇跡なんだ。

最後に、天国のミラノ姉ちゃん。
あの頃は、妹分だった私もすっかり年をとり、同じ役をやるようになったよ。
私は、あなたの風を感じ、日々、舞台に立っていました。
風、継げたかな。
ずっとずっと、私が姉ちゃんの風を継いでいくからね。
また、美味しい素敵なお店を見つけて、お茶をしながら、
美祢がいかにいい女だったかを、話そうね。
だから、笑って待ってて。

あなたの生きる時代に、私も生きられたことに、ありがとう。
そして、これからも、たくさんの風を感じて。  つづく

これからは穏やかに暮らします。(独り言)

サマーツアー終わりました。
応援してくださったみなさん、本当にありがとうございました。


これからほしいもの [日記]

今、ほしいものはありますか?
今、やりたいことはありますか?


少し前まで、私には、なぁんにもなかった気がする。
たいしたやりたいことが見つからなかった。
下手をしたら、今、食べたいものすら思い浮かばなくて。
出来れば、平和に、問題なく、健康に明日を迎えられたらいいな、と。
明日だって、なんなら来なくても、別にかまわないような。


今年の4月、久しぶりの休みがあった。
今までの休みは、なんだかんだ、仕事でやるべきことがあったり、
プライベートで、引越しをしなくちゃいけなかったりしてくれて、
忙しく、明日がやってきてくれた。
自分で強く望まなくても。


さぁ、何がしたい、と思ったときに、
私は飛行機に乗り、旅に出ていた。
高知に行ってみよう。
まだ、はっきりと、自分の気持ちもわからなかったけど、
手探りで見つけた私のやりたいこと。
友達に会いたい。
ついでに、やっぱり、四万十川が見たい。


水のある景色が好きで、
でも、海は、ときに大きすぎて、
だから、私は川が好き。
緑と水が一緒に感じられるから好き。
流れ続けてくれる音が好き。


高知に行くなら、四万十川が見たい。
ただ「見たい」っていう欲求が、自分の中では久しぶりな感じがした。
誰と見たいとか、みんながいいって言うからでもなくて、
ただ、四万十川をぼーっと見たい。


四万十川ってどこに行ったら見られるんだろう。
ガイドブックとパソコンを使い、行き方を調べる。
なんとなく答えが出て、あとはやってみるしかない状況。
たいていのことは何でもそうだよね。
答えは調べられないし、たぶん正解は何通りもあるし、
正解が大事ではないかもしれない。
1日に数本しかない電車を乗り継いで、
江川崎という駅に降り立った。
そこから、自転車を借りて、10数キロ先の岩間沈下橋を目指す。
四万十川にはたくさんの沈下橋が架かっているけど、
1番自然を感じられる美しい沈下橋を選んだ。
駅周辺にも人はいなくて、駅員さんがひとりいたのかな、
あとは自転車を貸してくれたお店の人がひとり。
人がだーれもいないぞ。
川の音を聴きながら、鳥のさえずりを聴きながら、
四万十川沿いに、自転車をひたすら漕ぐ。
前日の天気予報は雨。
そんなもんだよね。
雨でも雨の四万十川を見ればいいし。
でも、本当に運がよく、曇り空から雨が落ちてくることはなかった。
たまに雲の合間からお日様がのぞいたりした。


橋といっても、東京の川にかかっている車がびゅんびゅん通る橋ではなく、
人と、車が、通りたかったら通れますよって橋。
柵も何もない、川にかかるただのせまい道である沈下橋に、
足をぶらぶらさせて座れば、
四万十川のど真ん中で、ぼーっとできた。


高知にいる私の友達は、
障害があり、でも、明るく笑って生きている車椅子の男の子。
いつか必ず劇場に観に行く、と約束してくれた。
数年前、自分の1番大切だったはずの、
舞台に立つということすら迷った時期に、
私の人生の支えになった言葉をくれた人だ。
私は彼が観に来てくれるまで、当然、
舞台に立ち続けなくてはいけないと決まっていた。


四万十川のほとりで数時間、ぼーっとしながら、
でも、実は、考えるべきことすら、なくて、
流れる水を見ながら、川の音を聴いていた。
なんとか生きていれば、見たいと思うものを見られる。
やりたいと思うことを手探りでもやってみればいい。
自分にとって意味のある明日を迎えるために。


さぁ、舞台に立とう。


高知から帰り、稽古の最中にも、大変なことはたくさんあった。
泣きながら母と電話をした夜もあった。
負けず嫌いの私には、今までの長い人生で、
人に、しかも母に、弱いところを見せるなんて、ありえないことだった。


待ちに待った友達が高知から観に来る日が決まり、
密かにその日を迎えた。
カーテンコールで、客席にいた車椅子のその友達の笑顔が見え、
隣に座っているお母さんが、
動かない彼の手を高々と持ち上げて、
大きく振ったとき、
そして、一緒に、周りにいるお父さんや高知の友達が、
来たよぉ~と手を振ってくれたとき、
嬉しくて嬉しくて、
私も、
舞台の上から、大きく手を振った。
間違っていなかった。
舞台に立つという1番大切なことを見失わずにいられてよかった。


長いサマーツアーが終わり、また休みがやってきた。


今度はその友達が東京にやってきた。
彼は、ストリートで書を書くのが仕事。
あと、音楽の作詞もする。
今度は、彼の東京での仕事のサポートをしたいと心から思った。
まだまだわからないことだらけだったけど、
東京で、一緒に、駅の中をぐるぐるしながら、電車に乗ったり、
車椅子の入れるトイレを探してデパートをぐるぐるしたり、
車椅子の乗れるタクシーを呼んで一緒に乗ったり、
一緒に入って飲める居酒屋を探したり。


彼と一緒に過ごしたのはたったの3日間だったけど、
私の、自分のために、ぼーっと過ごしてた時間の使い方が、
あっという間に、激変してしまった。
やりたいと思うことがむくむくと沸きあがってきた。
私ごときでも、この世界には、やれることが、いっぱいある。


友達が高知に帰ってすぐに、
劇団の先輩たちが、立ち上げたユニットの公演があった。
その3人が大好きだったので、
私ごときでも、なにかしら、お手伝いできたらなぁと思い、
やりたいです、と手を挙げて、
稽古場に行ってみた。
本番にも毎日行ってみた。


結局、ずっとそばでお手伝いすることが出来た。
ものすごい楽しかった。
やりたいことは、やればいい。
そうやって、動けば、
世界がどんどん広がる。


明日なんか来なくても別にいいや、と思っていた私の人生が、
今、未来に向かって、
やりたいことで溢れている。
今、私に出来ることを探しながら、
劇団のために、やりたいことをやりたい。
週末の姉の結婚式のためにリングピローを作ろう。


明日が必要なのです。


今、1番、ほしいもの。
ものすごくほしいもの。


とあるエスプレッソマシン。


そんなにバカ高いものではないけど、
明らかに、生きていくうえで、すごく必要なものでもない。
コーヒーメーカーはあるし。
私は紅茶も大好きだし。
夜は、コーヒーというよりは、お酒だし。
でも、ものすっごくほしいものを久しぶりに見つけた。
それを買うために働くぞ。
必死に生きて、来年くらいに、
おうちにあのエスプレッソマシンを買うぞ。
買うまでは死ねないぞ。
買って、美味しいエスプレッソを淹れて、
やったぁ~~って幸せな気分になるぞ。
四万十川を見たいと思ったように、
実現して、次の目標に進むぞ。
まだまだ、やるぞ。
私はエスプレッソマシンを買うんだぞ。


ほしいものがある明日は、
すっごく楽しい。 つづく


いよいよ、今年最後の公演の稽古が始まる。
とにかく、いい舞台を作ることと、美味しいエスプレッソを飲むことが、
毎日の目標!(独り言)


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